JAZZを聴こうとした時、必ず出てくる代表的なアルバムがビル・エバンスのワルツ・フォー・デビー。

ビル・エバンスは1929~1980年までの51年間の生涯で100枚近い作品を世に送り出したピアニストであるが、その彼の全盛期は1950年代後半~1960年代、当時のJAZZシーンはファンキーJAZZの真っ只中。アート・ブレイキーやリー・モーガン、ホレス・シルバーなど汗まみれで黒人サウンドを強烈にアピールするスタイルが幅を利かせていたそんな時代、全く対照的にクールでインテリジェンスな彼の演奏はそれまでのウェストコーストJAZZとも異なる品格を持ち合わせたスタイルを特徴としていた。様々な見方はあるものの、私が思う彼の生涯を通してのベスト・メンバーがスコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラムス)を迎えたピアノトリオで、本作品は1961年6月25日ニューヨーク・ヴィレッジヴァンガードにおける彼らのライブ収録。

1曲目のMy Foolish Heartから2曲目のWaltz for debby、続くDetour Ahead、My Romanceと3人の表現が見事に重なり合わさり、協調演奏によってお互いを高め合うインタープレイが全編で愉しむ事が出来るパーフェクトな名盤である。また、会場のヴィレッジ・ヴァンガードがレストラン寄りのライブハウスということもあり、食器の当たる音やキャッシャーの音などが随所に聞き取れて、それが一層臨場感を高めてくれる。あまりにも有名なこのアルバム、ビル・エバンスだけがフューチャーされるのは仕方のないことであるが、彼の演奏をサポートするバック陣、特にベースのスコット・ラファロのインタープレイは言葉では言い表せないほど素晴らしい。低音域から高音域まで自由自在に音を操りながらエバンスのピアノと絶妙に絡み合い、時には控えめにエバンスのピアノをサポートし、時には絶妙に絡み合いサウンドの交感を高めていくというエバンスの今日までの評価を支える重要なアーティストであった事に気付かされる。

このライブ収録の10日後にベース、スコット・ラファロは事故により他界してしまい、そのショックからエバンスは半年間、ピアノの前に座る事すら出来なかったという色々な意味において忘れる事が出来ない作品。